1. はじめに:なぜPER・PBRを知る必要があるのか?
株式投資を始めたばかりの方の中には、銘柄選びの基準がよく分からず、「人気があるから」「なんとなく成長しそうだから」といった直感で投資してしまう人も少なくありません。
そんな中で、感情ではなく“数字”で判断できる指標が「PER」と「PBR」です。
PER・PBRを知らないとどうなる?
- 割高な株を買ってしまい、損をする可能性が高くなる
- 割安な銘柄に投資をする機会を逃してしまう
- 企業の実力以上の株価に飛びついてしまう
- 他の投資家との“共通言語”がわからない
PER・PBRは、企業の価値と現在の株価とのバランスを示す基本の指標です。これらを使いこなすことで、投資初心者でも理論的に株を選べるようになります。
2. PERとは?株価が利益の何倍かを示す指標
2-1. PERの意味とイメージ
PER(株価収益率)は、「現在の株価が、会社の1年分の利益の何倍か」を示す数字です。
例えるなら、家賃収入付き不動産の「利回り」と似ています。
【具体例】
- 株価:1,000円
- EPS(1株あたりの純利益):100円
(EPSは会社の1年分の利益÷発行されている総株式数で求められる指標)
→ PER = 1,000 ÷ 100 = 10倍
これは「10年分の利益で株価を回収できる」という意味です。
2-2. PERは高いとダメ?低いとお得?
一概にそうとも言えません。
- PERが高い:将来の成長に期待されている
- PERが低い:現在の利益と比較して株価が安い
つまり、「高PER=割高」とは限らず、成長企業にありがちです。
✅ 実例比較(2024年時点)
企業名 | PER(目安) | コメント |
---|---|---|
トヨタ | 約11倍 | 利益が安定しており低PER |
キーエンス | 約45倍 | 利益は高いが将来期待も大きく高PER |
3. PBRとは?企業の資産価値に対する株価の比率
3-1. PBRの意味とイメージ
PBR(株価純資産倍率)は、「会社の持っている資産に対して、株価が何倍か」を示します。
言い換えると、「この会社が解散したとき、1株いくら戻ってくるのか」を見るイメージです。
【具体例】
- 株価:1,000円
- BPS(1株あたりの純資産):500円
(BPSは会社の純資産÷発行されている総株式数で求められる指標です)
→ PBR = 1,000 ÷ 500 = 2倍
この場合、株価は純資産の2倍に評価されています。
3-2. PBRが1倍を下回ると“割安”?
PBRが1倍未満というのは、
「この企業の持ち物よりも安く株が売られている」状態
ですから、投資家から「割安だ」と注目される場合があります。
ただし、資産の質(不良債権など)や、企業の将来性が低評価されている可能性もあるため、安易な“お宝株”扱いは要注意です。
実際、東京証券取引所は上場企業に対してPBR1倍割れの企業は「上場しているより解散して資産を株主に配分した方が株主にとってはいい状態」を意味しており、改善すべき事態としています。
4. PER・PBRの平均的な目安と業種別の違い
4-1. 日本市場の全体平均
指標 | 平均水準(概算) |
---|---|
PER | 約13〜15倍 |
PBR | 約1.0〜1.3倍 |
※日経平均採用銘柄ベース(2024年)
4-2. 業種別のPER・PBRの違い
成長性のあるIT・医薬品業界ではPERが高くなりやすく、インフラや金融業界では低めになる傾向があります。
【業種別比較例】
業種 | PER傾向 | PBR傾向 | コメント |
---|---|---|---|
ハイテク | 高い | 高い | 成長期待で評価高め |
銀行業 | 低い | 低い | 安定収益・資産評価型 |
小売・外食 | やや高め | 普通 | 利益率が重要視される |
5. PER・PBRの“よくある誤解”と落とし穴
5-1. 赤字企業のPERは計算できない!
EPS(利益)がマイナスだと、PERは計算不能(または表示なし)になります。
「PERが“−”と表示されている銘柄」は、赤字企業の可能性が高いです。
5-2. PBRが低すぎるのも注意!
PBRが0.3倍や0.5倍など、異常に低い銘柄は
- 投資家にまったく期待されていない
- 業績が悪く、資産の中身に問題あり
というケースもあります。
6. PERとPBRの組み合わせパターン別の見方
PER | PBR | 判断のヒント |
---|---|---|
低 | 低 | 割安で注目されるが要精査 |
高 | 高 | 成長株、過大評価に注意 |
高 | 低 | 成長期待あり・資産評価は低い(例:ベンチャー) |
低 | 高 | 珍しいケース、利益は出ているが資産が評価されていない可能性あり |
7. PER・PBRと過去の市場との関係
7-1. バブル期のPER
1989年の日本のバブル絶頂期、日経平均のPERは約60倍にも達していました。
これは「企業の実力以上に株価だけが上がっていた」ことを意味します。
7-2. 暴落時のPBR
リーマンショック(2008年)直後は、多くの企業がPBR 0.7倍未満にまで下がり、解散価値すら下回る価格になった銘柄も。
→ 異常なPER・PBRは、相場の転換点を示すヒントにもなるのです。
8. PER・PBRの使い方:初心者のための実践ガイド
8-1. まずは証券会社の「指標」欄をチェック
楽天証券やSBI証券など、多くの証券口座では、銘柄ごとのPER・PBRが一覧で確認できます。
まずは「気になる銘柄のPERとPBR」を毎日見る習慣をつけましょう。
8-2. 初心者向けチェックリスト
✅ PERが20倍を超えていたら「なぜ高いのか」を調べる
✅ PBRが1倍未満のときは資産の内容に注意
✅ 同業他社と比べて極端に違う場合はその理由を探す
✅ 過去5年の業績推移とセットで見る
✅ PER・PBRだけで決めず、他の指標も確認する(ROE・配当利回りなど)
9. まとめ:PER・PBRを正しく理解すれば投資の質が変わる
PER・PBRは、投資家にとってもっとも基本的で、もっとも重要な「企業評価のモノサシ」です。
PER=利益から見る株価の妥当性
PBR=資産から見る株価の妥当性
これらを活用することで、「割安な株を探す」「割高な株を避ける」といった、堅実な投資ができるようになります。
難しく感じるかもしれませんが、まずは以下の3つから始めてみましょう。
- 気になる銘柄のPER・PBRを毎日チェックする
- 同業他社と比較してみる
- 数字の理由を調べてみる
数字に強くなると、投資の世界が一気に広がりますよ!