「円高になると輸出企業は業績が悪化する」とはよく知られた話ですが、では銀行株はどうでしょうか?
一見すると為替とは無関係にも思える銀行株ですが、実は為替の変動が業績や株価に大きな影響を与えることがあります。
この記事では、円高・円安それぞれの局面で、銀行株がどのように影響を受けるのかを徹底的に解説。
過去の事例や投資判断へのヒントも交えて、銀行株を保有・検討している投資家の方が正しく理解し、冷静な判断ができるようサポートします。
1. 銀行株と為替の関係を理解しよう
1-1. 「銀行株」とは?この記事で扱う範囲
この記事で言う「銀行株」は、特定の企業に限定せず、三菱UFJ・三井住友・みずほといったメガバンクや、地銀各社を含む銀行セクター全体を指します。
為替の影響が特に大きいのはメガバンクですが、地銀でも外国債券運用や為替ヘッジ取引を行っているケースもあり、完全に無関係ではありません。したがって、この記事では業界全体に共通する傾向と、企業ごとの違いにも触れていきます。
1-2. 為替が株式市場全体に与える一般的な影響
為替レートとは、「1ドル何円」などで表される通貨の交換比率のことです。円高とは、外国通貨に対して円の価値が上がること。逆に円安とは、円の価値が下がることです。
為替は企業の収益、資産評価、投資家心理などに影響を与えるため、株式市場全体の方向性にも大きく影響します。特に日本の輸出型企業(自動車・電機など)は円高で不利、円安で有利という構造のため、為替は市場の注目指標です。
1-3. 輸出企業と銀行株では為替の影響が異なる理由
輸出企業は「円で原材料を仕入れ、ドルで商品を売る」ため、円高が進むと利益が目減りします。一方、銀行はモノの輸出入は行っておらず、主にお金を扱うビジネスです。
それでも為替の影響を受けるのは、以下のような理由があるからです:
- 外国債券などの外貨建て資産を保有している
- 外貨融資や外為業務で利益を出している
- 為替ヘッジやスワップ取引などを行っている
- 投資家心理の変化により株価が影響を受ける
つまり、直接的な「売上減」は起きなくても、資産評価や市場の反応を通じて間接的な影響は大きいのです。
2. 円高が銀行株に与える主な影響
2-1. 外貨建て資産の評価損が発生するリスク
銀行は、資産運用の一環として外国債券(米国債など)を大量に保有しています。円高が進むと、それらの外貨建て資産を円換算した評価額が減少します。
たとえば、10億ドル分の米国債を保有していた場合:
- 1ドル=150円 → 評価額1500億円
- 1ドル=130円 → 評価額1300億円
この場合、200億円の評価損が出ることになります。こうした評価損は、会計上は「その他有価証券評価損」などとして計上され、決算や自己資本比率に影響を与えます。
2-2. 為替差損や為替ヘッジのコストが収益を圧迫
銀行は為替変動による損失を避けるため、為替ヘッジを行っています。ところが、円高が急激に進む局面では**想定以上の損失(為替差損)**が発生する可能性があります。
また、ヘッジを行うにもコストがかかります。為替スワップやオプションなどのヘッジ手段には手数料が発生し、それが収益を削る要因にもなります。
2-3. 投資家心理の悪化とリスクオフの連鎖
円高は多くの場合、**「安全資産としての円買い」**で起こるため、世界経済への懸念が背景にあることが多いです。そうなると株式市場全体が下落し、銀行株も例外ではありません。
加えて、銀行は「景気敏感株」としての側面もあるため、景気後退懸念=株価下落圧力がかかりやすいのです。
2-4. 海外調達コストが下がるメリットも
一部では、円高によって海外での資金調達コストが下がるというメリットもあります。たとえば、外貨での社債発行時に有利になるケースなどです。
ただし、このメリットは規模が限られており、評価損や心理的影響に比べると影響度は小さいとされています。
3. 円安が銀行株に与える影響との比較
3-1. 外貨建て資産の評価益が出る
円安になると、銀行が保有している外貨建ての資産の円換算額が増加します。これは、評価益として会計上プラスに作用し、自己資本や株主資本比率の改善にもつながります。
資産運用で収益を確保している銀行にとっては、大きな追い風です。
3-2. 外貨建て業務の利益増加
海外に拠点を持つ銀行や、外貨建て融資・外為取引を展開している銀行にとっては、円安によって外貨収益の円換算額が増えるため、利益が増加する傾向にあります。
メガバンクは海外の金融機関買収などで事業を拡大しており、円安の恩恵を受けやすい構造です。
3-3. 円安・インフレ・金利上昇の複合効果
円安が進むと物価が上昇し、それに対処するために日本銀行が金利を引き上げる可能性があります。金利が上がれば、貸出金利も上昇し、**銀行の利ざや拡大(=利益増加)**が見込まれます。
ただし、長期金利が急上昇すると債券価格が下落し、逆に評価損が出るリスクもあるため、一概にプラスとも言い切れません。
4. 過去の為替局面と銀行株の値動きを振り返る
4-1. 円高局面:2016年・2020年の事例
2016年は日銀がマイナス金利政策を導入した年で、円高も進行。銀行株は大幅に下落しました。マイナス金利と円高というダブルパンチで、投資家からは見放される形に。
また、2020年のコロナショックでは一時的にリスクオフから円高が進行。銀行株も全体的に売り込まれ、投資家心理が大きく冷え込んだ局面でした。
4-2. 円安局面:2022年の事例
2022年は米国の急速な利上げにより、ドル高・円安が進行しました。このとき、外貨建て資産の評価益や、利ざやの拡大を期待して、銀行株が上昇しました。
特に三菱UFJは、米国地銀の買収など海外展開の成果が評価され、株価が大きく上昇しました。
4-3. 金利との連動性がカギ
為替だけでなく、それに付随する金利動向が銀行株に与える影響は非常に大きいです。為替と金利が連動して動く場合(例:ドル高・米金利上昇)、銀行株にとってはプラスになりやすいです。
一方で、「円高+金利低下」は最悪の組み合わせとも言われており、株価は下落しやすくなります。
5. 銀行株投資で為替リスクをどう考えるべきか
5-1. 短期の為替変動に過敏になる必要はない
為替は短期的に乱高下することがありますが、長期投資では**企業の本質的な価値(ファンダメンタルズ)**を重視すべきです。
評価損が一時的に出ても、実際のキャッシュフローに大きな影響がなければ、焦って売る必要はありません。
5-2. 各銀行の為替感応度を確認しよう
三菱UFJや三井住友のようなグローバルバンクは為替の影響を大きく受けます。一方、地方銀行は基本的に国内業務中心であり、為替の影響は比較的軽微です。
自分が保有している銀行株が、どの程度為替に影響を受けるビジネスモデルなのかを知ることが大切です。
5-3. 為替だけでなく金利・金融政策の動きもあわせてチェック
為替・金利・金融政策は密接に関連して動きます。たとえば、円高が進んで日銀が追加緩和に動けば、また別の影響が出るかもしれません。
単一要因で判断せず、複数の経済指標を俯瞰して判断する力が、銀行株投資には求められます。
6. まとめ:為替が銀行株に与える影響を正しく理解しよう
銀行株は、為替と無関係なようでいて、実は様々なルートで影響を受けています。
- 円高:評価損や市場心理の悪化がマイナスに
- 円安:資産評価益や利ざや拡大でプラスに
- 金利・金融政策との連動性にも注意が必要
短期的な為替の動きに振り回されず、企業の財務体質や経営方針、そして市場全体のマクロ環境を冷静に見ることが、銀行株で利益を上げるための第一歩です。